2 キャッシュレススキームは沖縄から始まる!《日本メタデータ協議会 第7回オープンカンファレンス レポート》

投稿者:

福田 峰之

福田氏は、議員時代にマイナンバー制度やIT・防災・サイバーセキュリティー・科学技術・知的財産を担当するなど、政界きってのICT・データ通。現在は、沖縄で新たな決済サービスを立ち上げるべく尽力している。今回は、そのサービスの内容と、なぜそれが必要なのかを語ってもらった。

・マイナンバーの設計から官民データ活用推進基本法、そして沖縄へ

「マイナンバーについては、当時の国務大臣だった甘利さんがTPPの最終段階で忙しくてマイナンバーにまで手が回らず『おまえがやれ』と言われまして、大臣補佐官として制度設計をずっとやっておりました。
そのときに思ったことは、マイナンバーカードの中に入っているICチップを使って、インターネット世界での公的個人認証、私が私であることの証明ですね、この認証システムを作りたいと思いました。これがあれば、誰のデータかということをきっちり担保できつつ、場合によっては匿名化して見せないこともできる。これなら、もっとデータの活用がしやすい世の中になるのではと思いました。」

「そこで、大臣担当補佐官が終わった後、データの利活用を推進するために、今のIT大臣の平井卓也さんと一緒に、官民データ活用推進基本法という法律を作ったんですね。
で、作っただけじゃしょうがないので、現場で実践していかなければと思い、今取り組んでいるのがキャッシュレスアイランドを目指す『沖縄決済コンソーシアム』の設立です。この活動を通して、地域発のデータ活用モデルって何? どんなことが考えられるの? というのが今日の私のテーマです。」

官民データ活用推進基本法、くわしくはこちら

・キャッシュレスを便利だけで終わらせていいのか
「データはいろいろなところにあります。でも、どこになんのデータがあるか、それがどんな形なのかは、役所や企業のトップは知らないことが多いですね。また紙として残っていますといわれても、それはそれで困っちゃう。現状、データはあるけど、なかなか使い物になってないようです。
皆が欲しいと思う使い勝手のいいデータを目指すには、整理したうえで、何か他のデータや物を紐付けする必要があります。そこで初めて、何を紐付けすればいいのかという話になるわけです。」

「今、キャッシュレスが話題ですが、政府もキャシュレスを進めていこうとしています。一番大きな動きは経産省が音頭取りをしている『キャッシュレス推進協議会』です。推進体制を見ると、調査、標準化、普及といったプロジェクトの話がいろいろありますが、これをやってこれからどうなるの? を考えないと、国民の皆さんや観光客がお金を便利に使えるようになりました、良かったねで終わってしまいます。それはそれで重要なのですが、それだけで止まってしまったら、僕はあんまり意味がないんじゃないかと考えるわけです。」

一般社団法人キャッシュレス推進協議会のロゴ http://paymentsjapan.or.jp
キャッシュレス推進協議会の概要説明、当日の資料より。

「キャッシュレスを行うことで、そのバックヤードで発生する決済に関する各種データを自由に使えるようにならなければ、意味がないと思うのです。データをしっかり集めて、それを既存のデータとどうやって利用していくかを考えないといけないと思うのです。そうじゃないと、はっきりいって、なんの意味もない。
そこをしっかり考えておかないと、場合によっては他国の強力なシステムが入ってきて、決済データを持っていかれるかもしれません。便利にはなったけどデータは日本にはありませんでは、一体なんのためにやるんですかという話になります。」

・トータルウォレットで決済データを一括管理

トータルウォレットの概要説明、当日の資料より。 以下URLにもトータルウォレットのデータあり。
http://activeictjapan.com/pdf/20150311/jimin_it-toku_document_20150311.pdf

「これはトータルウォレットという考え方です。2014に、自民党のIT戦略特命事務局長を担当していたときに提案したもので、これを僕たちはやろうと思っていたのです。
この仕組みでは決済サービスはなんでもよくて(図左の既存カード以下が各種決済手段を示す)、お金が使われたら共通決済システムにデータが入ってきてデータの利活用が行えるようにしてあります、ここが大切なのです。
(図の左上の)個人認証は、マイナンバーの仕組みを利用する。これで各種の決済データと個人情報が紐づき活用できるわけです。
今、この世界観を作るために、沖縄で決済コンソーシアムを立ち上げているところです。沖縄は、まだキャッシュレスの比率は少ない。逆に、ここ10年間の成長率は高いのです。だから東京より急に増やせる可能性があります。」

・決済データの価値を上げるために、沖縄地方銀行の全部に参加願う

当日の資料より。

「コンソーシアムでは、沖縄に4つある地銀さんと一緒にやることにしています。銀行さんは、収入とかローンといった個人情報をたくさん持っています。でも単独の1銀行では、それらデータをどうやって活用していいかわからない、何をしたらいいでしょうになってしまう。そこで銀行をみんなまとめました。
銀行口座を複数、使っている方もいると思います。とすると、ある銀行での決済データだけでは、その人の購買履歴データが不足します。でも、沖縄の地銀のデータを全部集めれば、全沖縄県人や沖縄観光客の購買履歴をほぼ網羅したデータが生まれ、これによってデータの価値が相当高まります。
あるエリアの決済データについては、そこのエリアの全銀行を巻き込むことでデータの価値が大幅に高めることができる。だから、沖縄では全部の地銀さんと一緒にやることにしています。単独の企業や役所だけでは、データを膨らますことはできません。だから多くの人に参加してほしいのです。」

共通の決済基盤を構築することで想定される効果、当日の資料より。

「加えて、やみくもにデータを集めるだけじゃなくて、データを共有してくれる人たちを、どう選定して、どうコンソーシアムを作り上げていけばいいのか。そこでは、具体的にどんなデータが欲しいのか、といったいろいろなことを考えながらやっていく必要があります。実際、今まではそうしてきていますが、これらを考えないでやると、うまくいかないんじゃないかと思います。」

「結果や実績が早く欲しくて、ある任意の1エリアでキャッシュレスをやることは可能だと思います。しかし、それは実証実験に過ぎないのではないか。いろいろ他にも事例はあるのですが、実証実験で終わることが多いんですね。実証だけやって終わり、という実証ビジネスなんていうものもあるぐらいで。
でも、実装されなければ意味がないと思うのです。だから、なんとか実装されるモデルにしたい。これがうまくいけば、他の県でも地銀を巻き込んで横展開ができると思うのです。そのときは沖縄の仕組みを使えばいい、これで安価に進めることができると思います。
今、コンソーシアムは、沖縄県にも協力していただいています。沖縄総合事務局の人も必ず会議に出てきてくれて、みんな本気でやっています。」

当日の資料より。

・情報銀行の実現化こそ、時代がデータの価値を理解した証拠
「情報銀行も話題です。お金の代わりにデータを預けてくださいという話ですが、僕らはマイナンバーカードができる前から、データの信託銀行を作ろうと決めていました。『データをお金のかわりに信託してもらう。信託された側は、そのデータを利活用して、預けた人にデータの利息としてお金やサービスなどを提供する』という仕組みを考えました。」

「でも当時、誰にも関心を持ってもらえなかった。そこで、この話を本当の信託銀行の人たちに話をしたのです。信託銀行さんもお金だけじゃなく『データ』の信託をしたらどうですか、新しい形の信託銀行を目指してはいかがですかという話をしたんですね、そうしたら、なんて(彼らが)言ったと思いますか?
『お金以外のものに、価値なんかないじゃないですか』
『データなんか有っても、何が生み出されるんですか』
本当に、こう言ったんです!」

当日の資料より。

「そこで僕らは、図を使って、こーなって、あーなってって説明したのですが、まったく関心を示さなかった。今になって、信託銀行や銀行が、情報銀行をやるとか言い始めていますが、データがお金を産むとは、あのとき銀行さんは思ってなかったんですね。」

「沖縄決済コンソーシアムでは、観光や小売の事業者にも協力してもらわないといけない。そこで今は、協力してもらう場合、どんなことを考える必要があるかについてヒアリングをしています。手数料はいくらか、端末はどうするといった問題を乗り越えていかなければなりません。
今一番懸念されているのはスマートフォン用アプリを用意するとして、それをどれだけ多数の人にダウンロードしてもらうかです。このようなことを3ヶ月間ヒアリングして、年明け(2019年)から問題をつぶしていこうと思っています。」

ここで会場から「沖縄では、うまくいきそう感じはあるんでしょうか?」との質問が挙がった。福田氏は、講演のまとめの意味も含め、以下のように答えてくれた。

「実は沖縄以外の3つの県に同じ話をしました。知事にまで上げて話をしたのですね。でも、沖縄以外どこものってこなかった。沖縄だけのってきてくれて、今進んでいます。
それもあって関わっている人は成功させたいと思っている。そのためには、小売、観光業、決済に関する人たちの協力が必要。今回の僕らのモデルでは、銀行さんの関わりは大きいと思います。銀行さんが『沖縄のためだから』というと理解してくれる人は多い。やっぱり銀行さんの声って強いんですね。だからこそ、このやり方にしたんです。
個人的には、これは絶対成功させたいと思っています。こんな社会を作っていこうという強い気持ちを持った人たちとやっていけて、心強くも思っています。今日はご静聴をありがとうございました。」

福田氏、近影。

・・・・「カンファレンスの他の講演」・・・・
第7回カンファレンス「貨幣から情報へ」トップページ

1 今、なぜ「情報」なのか 入鹿山剛堂

2 キャッシュレススキームは沖縄から始まる! 福田 峰之(本ページ)

3 日本とエストニア連合で目指す個人情報とインターネットの復権 平尾 憲映

4 質疑応答 入鹿山・福田・平尾

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