田丸健三郎・日本マイクロソフト「ビジネス成長の為の持続的変革」《日本メタデータ協議会 第8回オープンカンファレンス レポート》

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 田丸氏からは、長い北米での業務体験との比較から見える日本のビジネスの有り様の話をいただいた。

「MSも経営判断を間違うと倒産したかも、という時期がありました。1995年、Windows95で、独自の技術路線を歩んでいた頃です。

 ビル・ゲイツ氏は、これからはインターネットの時代になる、すべての技術をインターネットもしくは標準の技術に合わせていくんだというメールを全社員に送り、開発体制を再構築しました。このとき独自の技術をそのままやっていたら、今のMSはなかったでしょう。」

「それからクラウド。今はオフィス365、アジュール等がありますが、ロータスノーツのレイ・オジーがMSに来て、クラウドを始めました。この方針変換がなければ、やはり今のMSはなかったと思います。

 MSの2007と2017年のアニュアルレポートを見ると、まったく内容が違っています。いまやMSはビジネスの多くをクラウドから得ています。Surfaceといったデバイスも増えてきました。」

市場の変化に敏感に。それがイノベーションを生む

「現CEOのサティア・ナデラが来たころは、MSの課題は各事業部の風通しが悪かった。他部署が何をしてるかに興味がなかったんですね。

 しかし市場の変化が速くなりつつあるとき、今の社内環境では、外の変化をキャッチし、社員一人ひとりがそれを感じ取ることが難しい。イノベーションを起こすには、迅速に顧客ニーズを知り、今後何が起きるのかを敏感に感じ取ることが重要だからです。

 MSは、これらを可能にする組織の変革に取り組みました。日本では働き方改革、MSではフレキシブルバックサイドと言いますが、仕事を行う上で如何に無駄をそいで、最適化した仕事環境を提供できるか。どこで仕事をしていても、オフィスと同じ働き方ができることをゴールとした取り組みです。

社内への投資がイノベーションにつながる

「ここからは私のトーンで話します。本当のA I活用を目指すには、ソフトウェアの開発、実装、こういった能力をもった人材活用が必須です。

 しかしながら、日本は社内のI Tエンジニアへの投資が突出して少ないようです。投資はしているけど、その実ほとんどがアウトソースで、社内では何もやっていないのでは? というのが、日本の現状と思います。

 I T技術者や担当者含め、ほとんどの関係者の知識が減価償却のタイミングでしか更新されていないようです。社内の設備交換の時は、皆さん一生懸命勉強して調達をするのですが、I Tのテクノロジーの変化は減価償却とは関係なくずーっと起きているのです。」

「日本はシステムインテグレーターに過度に依存している、これではイノベーションはなかなか起きないのではないかと思います。減価償却の更新時期に縛られた知識の更新では、イノベーションが起きるタイミングも非常に制限されてしまうと思います。」 

「一方米国は、競争領域と非競争領域とを明確に使い分けています。例えば、メールシステムをカスタマイズしたいなんて誰も思わない。カスタマイズしても、何かイノベーションを産むわけではないから、操作体系については、社内のユーザーがパッケージに合わせます。

 しかし、自社のビジネス競争領域にあるI Tの仕組みには、積極的に投資をし社内でどんどん作って、イノベーションを起こしていく。競争領域では、パッケージとか外部ベンダーに頼らず、ビジネスを最も理解している社内の人間がシステムを作っていく。だからこそイノベーションが起きるわけです。」

多様性がイノベーションを育てる

「私が米国にいたときは、グループ200名のうち8割ぐらいが海外、当時はヨーロッパの人が多かった。この多様性が、いろいろなアイディアや発想を生み、お互いの意識を変えていくんですね。実際にMSが新たなイノベーションを起こす上では、重要なファクターだったのかなと、個人的にも感じています。」

「DXを本当に日本で起こすには、今のI T投資から、社内の人材育成から根本的に見直さないと、国際競争のなかでは勝っていけないのではないかな、と私の個人的な感想を述べて、講演を終了したいと思います。」

米マイクロソフト社、2018のプロダクトごとの収益比率。以前、同社の代名詞だった、OfficeとWindowsは、今は合わせて約44%。収益構造が大きく変化しているのがわかる。